【意訳版現代語訳】天の巻 ホツマツタヱ12文 アキツ姫 天形の文

ホツマツタヱ12文の現代語訳を「読みやすさ」と「まとまり」を重視して意訳しました。

詳細な逐語訳や原文を確認したい方は、冒頭のリンクから個別ページを参照してください。




ホツマツタヱ12文のあらすじ


アマガツ(天形)とサッサツノコヱの起源を中心に、呪術・民俗・歌の成立が語られる文(あや)です。

1. アマガツの由来とハヤアキツヒメの功績

オシホミミの即位と御幸の際、輿の先に置かれた「アマガツ(天形)」の意味が問われ、その起源が語られる。これは、ハヤアキツヒメが初めて作った身代わりの神形であり、後に嫁入りの先乗りとして伝わる風習の源となる。

2. ムハタレ蜂起とアマテルの呪術戦

昔、アメオシヒの反逆を契機にムハタレが蜂起し、民が苦しんだ。アマテルはまじないの種を得て諸守に与え、上級ハタレ・ハルナの“呼吸を読む術”を、小児を抱えて呼吸を混ぜることで無効化した。この戦いが、後の呪術・歌謡の起源となる。

3. サツサツツウタと「サッサツノコヱ」の誕生

アマテルはハタレの術を乱すために歌を札に記し、ちまきに付けて投げ与えた。この歌「サツサツツウタ」を人々が唱えるとハタレは捕らえられ、これが後に「サッサツノコヱ」として楽しまれるようになった。

4. アマガツ命名の神話と天形の象徴性

かつて天に捧げられた小児が後ずさりしたことをアメミヲヤが称え、その子に「アマガツ(天形)」の名を与えたという故事が紹介される。アマガツは“身代わりとなる子”という象徴を持ち、災厄を引き受ける存在として位置づけられる。

5. アマガツの作法と呪術的効能

アキツヒメは布でアマガツを作り、神歌を込めてチチヒメに授けた。アマガツは妬み・恨み・死の怨念から身を守り、悪霊を封じるための器(ソラハフコ)としても用いられる。ただし、形だけでは意味を成さず、心を込めて作り神霊を招くことが重要とされる。

6. 天形の伝承と民俗化

カスガ(アマノコヤネ)の説明により、ハヤアキツヒメの功績が称えられ、アマガツは後世に語り継がれる。これが、現代にも残る嫁入りの先乗りの天形の起源とされる。

意訳文


アマガツの由来


サッサツノコヱとイモセノササイワヒの起源は、アマガツ(天形)を初めて作ったハヤアキツヒメに由来する。

オシホミミがアマツヒツキ(天皇)として即位し、タカの首(首都)に座し、タクハタチチヒメを内宮に迎えた。その御幸の際、輿の先に置かれたアマガツの意味をオシホミミは知らず、シホカマに尋ねたが答えは得られなかった。

次にカスガ(後のアマノコヤネ)にその謂れを問うと、カスガはこのように説明した。

「これは昔、マスヒト(地方官)のアメオシヒが天に背き、ムハタレ(六種のハタレ)が各地で蜂起したことがあった時のことです。ムハタレが民を苦しめていたため、アマテルは自らまじないの種を得て諸守に与え、これを討ちました。

その戦の際、ハタレの中でも上級のハルナが、アマテルのカンイキ(呼吸)を読んで術を封じようと試みましたが、それに気付いたアマテルは、三歳の小児を出車に入れ、袂の下に隠しておきました。これにより、二人の呼吸が入り混じったため、ハルナは呼吸を読み違えて術を封じることができなかったのです。

また、アマテルはハタレが呼吸を読めないよう、御歌を作って札に記し、それをサツサモチヰ(ちまき)に付けて投げ与えました。その時に付けられた御歌を「サツサツツウタ」といい、このような内容だったといいます。

『サスラテもハタレもハナケままならず、カカンを得ようともがくが手段は無く、ゆえにノンテン(伸展)も叶わない。日月と我は天下を照らすさ』
(曲者たちは未熟者であるため呼吸も読めず、手がかりを得ようともがくが手段は無く、ゆえに成長の手段もない。それでも日月と私は天下を照らすのだ)

諸人が、この御歌を「サツサ」と歌えば、ハタレの術は乱れてことごとく捕らえられたそうです。これを契機に「サッサツノコヱ」として楽しまれるようになったのです。

なお、これ以前に小児を天に送り神前に捧げた際、その子は手足もままならぬ身でありながら後ずさりをしました。アメミヲヤはこれを誉めて『お前の功は諸に勝っている、よって君を守れ」と、その子に「アマガツ(天形)」という名を与えたという話があります。

この故事に基づき、アキツヒメは布でアマガツを作り、カミウタ(神歌)を込めてチチヒメに与えました。これを輿の先に置くことで、道中のあらゆる障害が除かれましょう。アマガツにはこのような意味があるのです」

アマガツの活用法


続いてカスガは、アマガツの具体的な活用法を説明した。

「もし、妬みに耐えられぬ時や、免れぬ恨みに悩まされた時も、アマガツを傍らに侍らせれば身を守ってくれるでしょう。迫りくる死の怨念は、アマガツが身代わりとなって受けてくれるからです。

また、アレオニモノ(悪霊の類)を破った時には、それを「ソラハフコ(空の人形≒藁人形)」に招き入れて封じるのです。それを濯いで禊を成せば、鬼神もウツワモノ(器物)となるでしょう。

ソラハフコとは、乾いた土に生えた藁で作るカンカツ(神形)であり、布で作れば神霊を招く器となります。

なお、アキツヒメの歌にはこのようにあります。

『天形に 神賜れは 諸ハタレ 障りなすとも 君が身に 一度代り 忽ちに 立ち働きて 君が汚穢 厭免かるる 天形の守』
(天形に神霊が降りれば、諸ハタレが障害を及ぼしても、君の身に一旦依り憑き忽ち働く、君の汚穢は天形の守護によって皆 免れるだろう)

この歌を、天形の腹に納めて作るといいます」

この時、シホカマが「どのような天形でも、先例のように働くのかね?」と問うと、カスガは次のように答えた。

「そうではありません。ただ形を作るだけでは枯れ木と同じであり、そこに神霊があればこそ意味を成します。例えば、潮(海水)には塩気がありますが、正しく計量して煮詰めねば塩にはなりません。この天形も同じく、心を込めて作らなければ正しく機能しないのです」

以上でカスガによる天形の説明は終わった。これにシホカマをはじめとする諸人は深く称賛し、ハヤアキツヒメの功績を後世に伝えるために「サツサノコヱ」を語り継いだ。これが、今にも通じる嫁入りの先乗りの天形なのである。

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注釈


登場人物


・アマテル:『記紀』の天照大神に比定。男神。オシホミミの父
・ハヤアキツヒメ:祓戸四神の速秋津比売に比定。アマテルの西局のスケキサキ。アマガツを初めて作った
・オシホミミ:『記紀』の天忍穂耳尊に比定。アマテルの日嗣の御子で、タカノカフに遷都して即位する
・タクハタチチヒメ:『記紀』の栲幡千千姫命に比定。タカキネ(タカギ)の娘で、オシホミミの内宮となる
・カスガ:『記紀』の天児屋命に比定。後のアマノコヤネ
・アメミヲヤ:ホツマにおける創造神的な神霊
・シホカマ:神社祭神の塩土老翁神に比定。オシホミミの側近

関連知識


ホツマにおけるアマガツ

ホツマにおける「アマガツ」は いわゆる「身代わり人形」であり、呪術・防護・祓いのための実務的な道具として扱われるものとされます。初めて作ったのがハヤアキツヒメで、そのルーツはアメミヲヤ(創造神)の時代の故事にまで遡るものとされています。

一方で、悪霊の類を人形に封じ込める「ソラハフコ」というものがあり、これは「悪霊封じの藁人形」と言い換えられるもので、封じ込めたものを鬼神に転じさせて扱うものとされます。

これらを詳細にまとめると、以下のようになります。

【身代わり人形(アマガツ)】

布製の人形で、その腹に「あまかつに かみたまわれは もろはたれ さはりなすとも きみかみに ひとたひかはり たちまちに たちはたらきて きみかをゑ みなまぬかるる あまかつのかみ」という和歌を納めて作ると記されています。

・役 割:守護・身代わり・祓い
・効 果:災厄・怨念を持ち主の代わりに受ける。行列の先に置くと道中の障害を祓う
・製 法:布製の人形の腹に和歌を納める。ただし、人形だけでは無効で「神霊を招く作法」が必要
・備 考:現代の「天児(あまがつ)」「這子(ほうこ)」の原型にあたる

【悪霊封じの藁人形(ソラハフコ)】

藁製の人形で、乾いた土(穭生え)に生えた藁で作る神形とされますが、詳しい製法や使用方法は説明されていません。

・役 割:悪霊の捕縛・封印
・効 果:退治した悪霊を招き入れて封じる器。水で濯ぎ、禊を行うことで浄化すれば使役可能となる
・製 法:不明
・備 考:俗学的にいう呪詛の藁人形に類似するが、封印・浄化に重点を置いた呪術道具として描かれる

一般におけるアマガツ

日本の民俗では、アマガツ(天児)は主に子どもの身代わり人形として用いられ、災厄・病気・穢れを引き受ける守りの道具とされます。古くは、皇室や公家、上級武家の風習とされ、子どもに起きる病気や災厄、穢れを肩代わりしてもらうための人形として枕元に飾られたそうです。現代でも、扱われることがあり、地域によっては「尼児」「這子(ほうこ)」などの名で伝わっているとされます。