現代語訳

・城内にて、タチバナモトヒコ※は諸に告げた
 ・「蝦夷は服従せずに(人民を)殺す故、大御宝(国民)が巡幸を請うている」
 ・そこで、これを機に"コトハジメ(改革の開始)"とし、12月8日にカグカゴを立ててシルシ(標)とした
・このとき、ヤマトタケ※は皇軍をカンフサ(上総)に渡そうとした
 ・しかし、軍船を漂わせる風が止まなかったので、これを鎮めるためにオトタチバナヒメ※は船の舳に上って天地に祈った
  ・「我が君のイツ(稜威)をヤマトに立てるため、私は君のためにタツとなって船を守ります」
 ・このように祈ると、姫は海に入ってしまった
 ・諸人は驚いて、姫を救い出そうとしたが結局叶わず、波の凪は無くなって、御船は岸へと着くことが出来た
  ・こうしてヤマトタケが上総に入れば、榊の枝に鏡を掛けたカトリトキヒコカシマヒデヒコイキスオトヒコが出迎えた
  ・そして、予てより待っていたオオカシマ※の元で御饗した
・その後、ヤマトタケはアシウラを越えて勿来浜に仮宮を設け、そこを拠点とした
 ・この際、ヒタカミミチノク※シマツミチヒコ※、ほか国造5人、県主174人と万輩がタケノミナトに集結して進軍を拒んだ
 ・そこで、ヤマトタケオオトモタケヒ※を派遣して交渉させた
  ・なお、シマツミチヒコは予め威勢に恐れていたため、弓矢を棄てて御前に伏し、服従を誓った
 ・タケヒヒタカミミチノクとの交渉に出向けば、ミチノクは門にて出迎えて こういった
  ・「今の汝らの皇は、(天の皇では無く)人の皇である
  ・それを君として仕える汝は愚かにも、今こうして我が国を奪おうとするのか」
 ・タケヒは答えて言った
  ・「これは上の御子(天皇)が汝を召したが服従しなかった結果である、故に討つのだ」
 ・ミチノクは答えた言った
  ・「上の御子(天皇)とは何の言、何のいわれが有ってのことか
  ・我が国は大御祖のタカミムスビ※が建国して7代までこれを継ぐ
  ・日の神(アマテル※)は此処にて道を学んだ故にヒタカミという
  ・陽陰の皇子(オシホミミ※)チチヒメとの間に皇子を二人生んだ
  ・そして、兄(テルヒコ※)はアスカを、弟(ニニキネ※)はハラミを治めた
  ・その時、国を賜って14代の裔を経て我までは他所の治めを受けなかった
  ・しかし、それの君(神武天皇※)アスカ(ニキハヤヒ※)を討って国を盗った
  ・故に汝らと上代は違い、和合することなどできるワケがない
  ・今もこうしてやって来て、国を盗ろうとする、これが上のすることかな、皇君よ」
 ・これにタケヒは微笑んで、このように諭した
  ・「これは、汝がヰナカに住んで沢を見なかった故に得た誤解である
  ・その言とよく似ているが見当違いであるぞ、これを説く故、確と聞くべし
  ・昔、アスカのナガスネ※が代嗣文を盗む罪を犯したが、アスカ君(ニキハヤヒ)はこれを正さなかった
  ・これ故に『乗り下せ ホツマ方平む 天下斎船(東方を平らげる宣を下せば天地も祝う)』の歌が世に歌われたのである
  ・そこでシホツチ翁君(タケヒト※)に平定を勧め、大和が正さることに決まった
  ・その際、大御神もカシマの神に東方平定の詔をしたが、カシマの神は自ら出向かなくても事足りると国平けの剣を下した
  ・この剣はタカクラシタ※によって君に捧げられたのだ
  ・そして、大和を平定したタケヒト(神武)は、日月の君たる稜威がある故に天より続く上の御子となった
  ・以来、こうして上の御子が代々和照る(日月を和合する)のである」
 ・次いで、タケヒは「汝らは君(天皇)に従わずに治まったと言うが、暦は何であるか?」と尋ねた
  ・すると、ミチノクは「イセ(ヒヨミの宮)」と答えた
 ・これを聞いたタケヒは話を続けた
  ・「アマテラスカミは暦を成し、ソロを植えさせて糧を増やし、身を保たせる
  ・アマテル神が地に現れて179万3000年続くこの世を見て、今はヒノワチに御座しておられる
  ・その御孫が代々民を治めており、これを和して照らす日に擬えてアマキミというのである
  ・汝は代々実りを受けて命を繋いできたにも関わらず、君に返言を申さぬとはとても罪が深い
  ・その罪が積り積もって、今は幾らになっていることだろうか
  ・だが、抜け道はある、我が君は上の御子ではないのだから」
 ・この時にミチノクおよび皆伏して、ヤマトタケの元にやって来て服従を誓えば、ヤマトタケミチノクらを許した
  ・これにより、勿来より北はミチノクを国の守とすれば、ミチノクは100県の果穂を捧げるようになった
  ・ツガルヱミシはシマツミチヒコに統括させ、これにより70県の果穂を捧げるようになた
  ・また、南の常陸・上総・安房はミカサカシマ(オオカシマ)に与えた
  ・また、カシマヒデヒコカトリトキヒコイキスオトヒコの3人には御衣を与えた

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用語解説

・タチバナモトヒコ:橘の君で、ハナタチバナヒメの父、ヲトタチバナヒメの祖父
・ヤマトタケ:オウス御子のこと(西征の際に熊襲から与えられたオウスの称名)。『記紀』のヤマトタケルに当たる
・オトタチバナヒメ:タジマモリとハナタチバナヒメの娘で、ヤマトタケ(オウス)のスケ妻となる
・オオカシマ(ミカサカシマ):アメノコヤネの後裔で伊勢神宮の斎主を勤める。ミカサフミの編者。
・ヒタカミミチノク(ミチノク):タカキネの7代孫 (14代タカミムスビに当たる)
・シマツミチヒコ:ツガル国の国主
・オオトモタケヒ(タケヒ):靫負部を兼ねるホツマ国(甲斐・駿河)の主
・タカミムスビ:"ヒタカミ国を統べる者"という役職名を指す
・アマテル:イサナギ・イサナミの御子で、地上における日月の顕現とされる(天照大御神に当たる)
・オシホミミ:アマテル神とセオリツヒメの御子であり、『記紀』でいうオシホミミに当たる
・テルヒコ(クシタマホノアカリ):オシホミの長男で『日本書紀』でいう天照國照彦火明命(九段一書 八)に当たる
・ニニキネ:オシホミミの二男であり、『記紀』でいうニニギに当たる(ワケイカツチノアマキミ)
・ニギハヤヒ:ホノアカリの長男で、ニニキネの孫。『記紀』『旧事紀』の饒速日に当たる
・タケヒト(神武天皇):ウガヤとタマヨリヒメの第二子で、東征を果たす。『記紀』でいうカムヤマトイワレヒコに当たる
・ナガスネ:フトタマの孫で、ミカシヤヒメの兄に当たる。『記紀』『旧事紀』でいうナガスネヒコに当たる
・タカクラシタ:タクリの子で、ヤヒコカミ。『記紀』のタカクラジに当たるが、『旧事紀』ではタクリと同一視される

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原文(漢字読み下し)

・ここにモトヒコ
・諸(もろ)に告(ふ)れ 服(まつろ)ろはされは
・殺(ころ)す故(ゆえ) 大御宝(おおんたから)か
・巡幸(みかり)り請(こ)ふ 事始(ことはしめ)とて
・十二月八日(しはすやか) 橘籠(かくかこ)立(た)てて
・標(しるし)とす

・時(とき)ヤマトタケ
・皇軍(おおいそ)お 上総(かつさ)え渡(わた)す
・軍船(いくさふね) 漂(たたよ)ふ風(かせ)お
・静(しつ)めんと オトタチバナは
・舳(へ)に上(のほ)り 天地(あめつち)祈(いの)り

・我(わ)か君(きみ)の 稜威(いつ)おヤマトに
・立(た)てんとす 我(われ)君(きみ)のため
・竜(たつ)となり 船(ふね)守(まも)らんと
・海(うみ)に入(い)る

・諸(もろ)驚(おとろ)きて
・求(もと)むれと 遂(つい)に得(ゑ)されは
・波(なみ)凪(な)きて 御船(みふね)着(つ)きけり

・ヤマトタケ 上総(かつさ)に入(い)れは
・榊(さかき)枝(ゑ)に 鏡(かかみ)お掛(か)けて
・向(む)かひます カトリトキヒコ
・ヒデヒコと イキスオトヒコ
・予(かね)て待(ま)つ オオカシマより
・御饗(みあゑ)なす

・葦浦越(あしうらこ)えて
・勿来浜(なこそはま) 仮宮(かりみや)に坐(ま)す
・ヒタカミの ミチノクシマツ
・ミチヒコと 国造(くにつこ)五人(ゐたり)
・県主(あかたぬし) 百七十四人(ももなそよたり)
・万輩(よろやから) タケの水門(みなと)に
・拒(こは)む時(とき) タケヒお遣(や)りて
・これお召(め)す

・シマツの守(かみ)は
・あらかしめ 威勢(いさわ)に恐(おそ)れ
・弓矢(ゆみや)棄(す)て 御前(みまえ)に伏(ふ)して
・服(まつろ)ひぬ

・タケヒまた行(ゆ)く
・ヒタカミの ミチノクに告(つ)く
・差使人(さをしかと) ミチノク門(かと)に
・出(い)て迎(むか)え

・ミチノク曰(いわ)く
・今(いま)汝(なんち) 人(ひと)の皇(すへらき)
・君(きみ)として 仕(つか)える汝(なんち)
・衰(おとろ)えり 今(いま)来(き)て国(くに)お
・奪(うは)わんや

・タケヒの曰(いわ)く
・上(かみ)の御子(みこ) 汝(なんち)お召(め)せと
・服(まつろ)わす 故(かれ)に討(う)つなり
・応(こた)え言(い)ふ これ何(なん)の言(こと)
・何(なん)の謂(いゐ) それ我(わ)か国(くに)は
・大御祖(おおみをや) タカミムスビの
・この国(くに)お 開(ひら)きて七代(ななよ)
・これお継(つ)く

・日(ひ)の神(かみ)ここに
・道(みち)学(まな)ふ 故(かれ)日高(ひたか)みそ
・陽陰(あめ)の皇子(こ) チチ姫(ひめ)と生(う)む
・皇子(こ)二人(ひと) 兄(ゑ)はアスカ宮(みや)
・弟(と)はハラミ

・その時(とき)国(くに)お
・賜(たま)わりて 十四(そよ)の裔(はつこ)の
・我(われ)まては 他所(よそ)の治(た)受(う)けす
・それの君(きみ) アスカお討(う)ちて
・国(くに)お盗(と)る 上(かみ)に違(たか)えり
・故(かれ)和(な)れす 今(いま)また来(き)たり
・盗(た)らんとす これも上(あ)かや
・皇君(すへきみ)よ

・タケヒほほえみ
・これ汝(なんち) 井中(ゐなか)に住(す)んて
・沢(さわ)お見(み)す 言(こと)好(よ)きに似(に)て
・当(あた)らすそ 確(しか)と聞(き)くへし
・これ説かん

・昔(むかし)アスカの
・ナガスネか 文(ふみ)盗(ぬす)めとも
・アスカ君(きみ) 正(たた)さぬ故(ゆえ)に

・乗(の)り下(くた)せ ホツマ方(ち)平(ひろ)む
・天下斎船(あまもいわふね)

・世(よ)に歌(うた)ふ シホツ翁(をきな)か
・これ行(ゆ)きて 平(む)けさらんやと
・勧(すす)む故(かれ) 大和(やまと)正(たた)せは
・大御神(ををんかみ) カシマの神(かみ)に
・御言宣(みことのり) 行(ゆ)きて打(う)つへし
・その応(こた)え 我(われ)行(ゆ)かすとも
・国平(くにむ)けの 剣(つるき)下(くた)して
・タカクラに これ捧(ささ)けしむ

・タケヒトは 君(きみ)たる稜威(いつ)の
・ある故(ゆえ)に 天(あめ)より続(つつ)く
・上(かみ)の御子(みこ) 代々(よよ)に和照(あまて)る

・汝(なんち)代々(よよ) 君(きみ)なく暦(こよみ)
・何(いつ)れそや

・答(こた)えてイセと

・また曰(いわ)く 和照(あまて)らす上(かみ)
・暦(こよみ)成(な)し ソロ植(う)えさせて
・糧(かて)増(ふ)やし 身(み)お保(たも)たしむ

・百七十九(ももなそこ) 万三千(よろみち)続(つつ)く
・この世(よ)見(み)て 今(いま)日輪内(ひのわち)に
・御座(おわ)します 御孫(みまこ)の代々(よよ)の
・民(たみ)治(をさ)む 日(ひ)に擬(なつら)えて
・和君(あまきみ)そ

・汝(なんち)は代々(よよ)に
・実(みの)り受(う)け 命(いのち)つなきて
・未(いま)たその 君(きみ)に返言(かえこと)
・申(もふ)さぬは その罪(つみ)積(つ)もり
・幾(いく)らそや 抜(ぬ)け道(みち)ありや
・我(わ)か君(きみ)は 上(かみ)ならすやと

・この時(とき)に ミチノク及(およ)ひ
・皆(みな)伏(ふ)して 服(まつろ)ひ来(く)れは
・ヤマトタケ ミチノク許(ゆる)し

・勿来(なこそ)より 北(きた)はミチノク
・国(くに)の守(かみ) 百県(もかた)の果穂(はつほ)
・捧(ささ)けしむ

・津軽蝦夷(つかるゑみし)は
・ミチヒコに 七十県果穂(なそかたはつほ)
・捧(ささ)けしむ

・南(さ)は常陸(ひたち)
・上総(かつさ)・安房(あわ) ミカサカシマに
・賜(たま)りて カシマヒデヒコ
・トキヒコも オトヒコ三人(みたり)
・御衣(みは)賜(たま)ふ

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現代語訳文の目的・留意点

・この現代語訳は、内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・原文や用語の意味などについては「ほつまつたゑ 解読ガイド」をベースにしています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・文献独自の概念に関してはカタカナで表記し、その意味を()か用語解説にて説明しています
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解し易いように敢えて書き加えています
・人物名や固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文には無いものです
・原文は訳文との比較の為に載せています(なお、原文には漢字はありません)
・予告なく内容を更新する場合があります